小説 | ナノ


▼ こはね様

「はーい、お疲れ!ドリンク1人一本置いてるから取っていってね〜」

「あざーす」とたくさんの声が聞こえて、わたしは洗濯を回しに行く。体育館に戻ると飲み終わったボトルが置いてあったので回収し、水道で洗う。頼むからあと1人くらいマネージャー入ってくれと思う気持ちは常々あるが、なかなか上手くいかない。他の高校はマネージャーが何人かいるので羨ましい限りだ。

今年で最後になる合同合宿に、わたしも例外なく参加する。この間あった仙台遠征にわたしは不参加だったので、今日はいつもより楽しみにしてることがあった。

「名前サン、いつもより機嫌良くない?」
「そんなことないよ。フツー」
「機嫌フツーの人は鼻歌歌いながらボトル洗わないですよ」
「クロ、うるっさい」
「はいはーい」

クロを適当にあしらって、元の仕事に戻るとみんな休憩が終わったのか体育館に戻っていく。午後の試合もスコアをつけながら試合を見ていると急に体育館の扉が開く。

「"主役"は遅れて登場ってか?ハラ立つわ〜」

うん、やっぱりそうだ。研磨から聞いてたから何となくそんな気はしてたけどやっぱりここで会えるなんて思ってなかったから自然と頬が緩んでしまう。

初日の練習が終わり、マネージャーの仕事も終わった頃に廊下で研磨が立ち話をしてるのを見かけ声をかける。

「研磨、お疲れ様」
「お疲れ様」
「ちわっす!って、え?あ、?」
「やっぱり体育館で気づかなかった?翔ちゃん、久しぶり!」

おっきくなったね〜!とわしわし頭を撫でると翔ちゃんは「名前、ちゃん?!」とやっと状況を理解したようだった。

「わたしが仙台居た時ぶりだから、10年ぶり?くらい?」
「名前ちゃんが、音駒?!って、え?!」
「研磨から聞いてたんだけど、びっくりさせたくて黙ってたんだ〜!びっくりした?」
「すっげーびっくりした!」
「何?翔陽と名前知り合いなの?」
「幼馴染なんだ〜!お母さん同士が仲良くて、ねー?翔ちゃん!」

久しぶりに会った弟分にテンションが上がり思わず抱きついてしまうとわかりやすく翔ちゃんの顔が真っ赤になる。研磨に「他校生に迷惑かけないでよ」と無理矢理剥がされ「早く寝て、おやすみ」とそのまま翔ちゃんとお別れすることになった。全然話し足りてないのに、酷いなぁ。と思いながらもマネージャーの部屋に戻る。

ーおっきくなったら名前のことお嫁さんにしてね!
ーうん!名前ちゃんとケッコンする!

懐かしい夢を見た。翔ちゃんはわたしより2歳年下だから覚えてないだろうけど、昔した約束。懐かしい気持ちになりながら朝の準備をして廊下に出ると翔ちゃんがいる。

前を歩く翔ちゃんを見かけ後ろから勢いよく抱きついて「おはよう」と声をかける。

「?!名前ちゃん!お、おはよ!」
「昨日お母さんに電話で翔ちゃんに会ったって言ったらめちゃくちゃビックリしてた〜!」
「おれはまだビックリしてる...」

翔ちゃんにくっついたまま歩いていると、後ろから引っ張られまたもや強制的に離される。

「コラ名前、チビちゃん困ってるでしょーが」
「困ってないもん!」
「はい!!いいえ!!!」
「クロと翔ちゃんが話したら汚れるからあっち行って!」
「はぁ〜〜〜?!お前そんな生意気なこと言うならこうだからな」

クロに頭をぐちゃぐちゃにされ朝からセットしたのに!と文句を言うとゲラゲラ笑って走っていく。ほんとむかつく。クロのことを追いかけようとすると、腕を掴まれおどろいて振り返る。

「あ、ごめん!なんでもない!」

大きくなった翔ちゃんの背中を見ながらわたしはさっき掴まれた時の手の大きさに驚いていた。

少し期間が空き、夏休みに入る。翔ちゃんとは毎日のように電話やメールをしていたので久しぶり、という気持ちはあまりなかったけど本物の翔ちゃんに会えて嬉しい気持ちでいっぱいだった。

昨日も翔ちゃんとゆっくり話せたし楽しかったなぁ、なんて思い出しながら今日も朝から機嫌よく鼻歌を歌いながら準備をしていた。

「ヘイヘイヘーイ!」
「ぼっくんおはよ〜!」
「お前鼻歌へったくそだな!」
「そんなこと言う人にはもうおかず増やしたりしてあげないからね!」
「木兎さんそんなことしてもらってたんですか...。他校のマネージャーさんにまでご迷惑をおかけしてすいません」
「ぼっくんの分は今日からあかーしにあげよっと」

そう言うとぼっくんがわたしの肩を両手で掴み「すまん!!!」と大きい声で謝ってくる。思ってたより顔が近く、思わず赤くなってしまった顔を逸らすと近くにいた翔ちゃんと目が合う。翔ちゃん、と声をかけようとすると走ってどこかへ行ってしまった。

練習が終わった後も自主練を続けてるみんなのことをサポートしていると、自主練を終えたのか翔ちゃんがひょこっと目の前に現れた。

「名前ちゃん。ちょっと話が、あります」
「場所変える?」

うん、と頷いた翔ちゃんがいつもより小さく見えて少し可愛いと思ってしまった。合宿所の中を少し歩くとベンチがあったので2人で並んで座り翔ちゃんが話し出すのを待つ。

「どうしたの?なんかあった?」
「おれ!名前ちゃんとした約束まだ覚えてる、から」
「うん?」
「名前ちゃんは忘れてるかもしれないけど。おれは覚えてるし春高で会ったら、返事聞きたい」

翔ちゃんの大きい目がわたしを捉えて離さない。

「名前ちゃんのことが、好きだ」

そう言うと翔ちゃんは顔を真っ赤にして立ち上がり、わたしの腕を引いてずんずん元の道を歩いて帰ってしまった。やっぱり大っきくなってるなぁ、という思いとさっきの告白の翔ちゃんが大人に見えて急に意識をしてしまい心臓が、うるさい。

幼馴染から恋人になるまで、あと半年...?



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